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- ―デザイナーになったきっかけは?
- ベネチア近郊のムラノで生まれた私はガラス職人の祖父を持ち、
母はガラスのデコレーターでした。
それゆえ、自発的にモノを作りデザインするというのは
ごく当たり前なことだったと言えます。
- ―カッシーナからオファーを受けた時の印象は?
- 最初にカッシーナから電話を受けた時はパリにいたのですが、
全く予想外の出来事で…。
電話を取った瞬間は様々な感情や思いが入り乱れ、
ことばに表すのはとても難しいのですが、
とにかく嬉しくてその直後にはお祝いをしに出かけていました。
- ―オファーを受ける前と後でカッシーナの印象は
どのように変わりましたか?
- オファーの前も後もカッシーナに対しての印象は全く変わりません。
長きに渡るモノ作りの経験、デザイン史の重要な一翼を
今なお担っている素晴らしい、私が大好きな会社です。
カッシーナのような会社と仕事を共にするのはデザイナー冥利につきます。
というのも、カッシーナ社の方々はデザイナーへの敬意を示しつつ、
各々が培って来られた優れた技術をもとに、
デザイナー自身がより一層コンセプトや創造性を伸ばしてくれる材料を示してくれ、
相互に刺激し合い仕事に取り組んでいるからです。
- ―「ラ・ミーズ」と「トレイ」のデザインコンセプトは?
- 「La Mise ラ・ミーズ」
- 「ラ・ミーズ」のコンセプトはカッシーナが企業文化の本質的な要素の一端として
研究開発を続けてきた「ファブリック」に特別な価値を持たせています。
カッシーナにとって張地・ファブリックは一つ一つのプロジェクトの哲学や形、
そしてフォルムに付加価値を与える重要な素材です。
ラ・ミーズは柔らかで上質な一枚仕立てのクチュールドレスをイメージして作りました。
自然に作られた折り目が様々な表情を作り、羽のようなルーズフラップの
アームレストが身体を包み込み抱擁するような感覚をソファに持たせました。
また、タックのような特徴的なジグザグステッチを施していますが、
これにはカッシーナであればこそ可能であった特別な技巧が応用されています。
最初のスケッチからデザイン画を起こし、原寸プロトの製作に至るまで
「ラ・ミーズ」はいわゆる「ラブソファ」、「3シーター」、「アームチェア」と言った
クラシックなリビングルームのアイテムをどう現代のライフスタイルに合った形に
して行くかという一貫した試みのもとカッシーナと取り組んだプロジェクトです。
- 「Torei トレイ」
- 「トレイ」は英語のTray(お盆)をあえて日本語の発音でローマ字表記し、
命名しました。「トレイ」の小さなテーブルのコレクションはそもそも
お盆の持つフレキシブルなサイズと機能性を生かし、
ソファやアームチェアの横に気軽に置ける高さを意識して脚をデザインしています。
「トレイ」は長さ・高さ共に2パターンを用意。
小さなテーブルを交互に配置することによってセンターテーブルにもなり、
なおかつ各々サイドテーブルとしても使え、
あらゆる生活様式にマッチするよう配慮しています。
- ―創造性の原点・デザインインスピレーションの源は?
- 私の作品は殆どが普段づかいできる日常的な品々です。日々のニーズ、
さらには新しいテクノロジーや素材に対する強い好奇心が
インスピレーションの源になっています。あとは世界中を旅して回ることにより
新しい文化やライフスタイルを体験し、
そこから様々なヒントを得ているのも事実です。
- ―興味のある人・事・現象
- あらゆる「こと」や「事象」を生み出しているのは「人」です。
それゆえ、私は「誰」ということなく「人」全般に興味を持ち、
その「人」が起こす「事象」や「こと」に
興常に興味を持っています。
- ―自身の今後のデザインやクリエイションの展望について
- コンテンポラリーデザインというのは「今」早急に必要とされていることへの
「答え」を見出す為に全身全霊を注ぐことだと考えています。
今最も問題とされているのは環境破壊と経済危機ですよね。
私はデザイナーとは持続可能なデザインを創造する、
すなわち「スローデザイン」を掲げて行くべきだと考えます。
生易しい仕事でないことは十二分に心得ていますが、
いつかは着手せねばならない事であると同時に
今こそ前向きに試して行く時期に来ていると思います。
- ―どうして「日本」が好きになられたのですか?
日本文化の中でインスピレーションを得るものが
あるとしたら何ですか?
- 私が最も好きなのは日本人が仕事や生活の中に持つ「こだわり」や「緻密さ」。
この「こだわり」は最終的には高い「質」をもたらします。
日本では建築、デザイン、食、さらには人間的なつながりの全ての面において
「質の高さ」や「品位」を感じます。
西洋文化においてもこれは大いに見習い
取り入れて行くべき価値だと考えます。
- ―カッシーナへのプレゼンをする時に特に留意した点は?
- 「ラ・ミーズ」は3 つのスケールの模型を
ファブリックで覆った形でプレゼンしました。
いずれも最終の完成品の美的かつ構造的な特徴を体現したもので、
これらの模型を元にプロジェクト全体ならびに
ディテールに至るまで綿密に説明することができたのです。
模型を作ることにより実際の商品が成功するか否かを図ることができます。
なぜなら模型が説得力を持てばプロトタイプも、
最終商品も極めて完成度が高くなるからです。
- ―作品が製品化されると聞いた時どのように感じましたか?
- 本当に嬉しかったです。イタリアデザインを常に牽引し
「メイド・イン・イタリー」を世界的に知らしめた会社と仕事をするなんて
そうそう起きることではないですから。
- ―製品化ならびに生産ラインに乗せて行くプロセスについて
どう思われましたか?
- 製品化ならびに生産ラインに乗せるためのプロセスは極めてスピーディでしたが
それもこれもカッシーナの際立ったR&Dチームがあってこそ可能なことでした。
当初より私のみならず生産チームの責任者をも巻き込む体制を敷いてくれたため、
プロジェクトの美的感性の部分と生産のためのソリューションを
同時進行で進めることができたのが最大の利点であったと思われます。
- ―カッシーナとのコラボレーションについてどう思われますか?
他社と比べてどうでしたか?
- カッシーナと仕事をするということは様々な理由から
デザイナーにとってはとても重要な体験であると思います。
カッシーナ社ではそれぞれの方々が自身の役割や
立場に責任を持っていると同時に他の者に対する
敬意を持って仕事をしています。
私が思うに、
「聞く能力のある者は教える能力もある」。
私は「ラ・ミーズ」と「トレイ」の
開発のプロセスにおいて多くを学び、
同時に自らの経験や知識を
カッシーナの方々と分かち合う
という素晴らしい機会に
恵まれたのです。
- ―デザイナーを選定する際の最も重要な点は何でしたか?
- カッシーナではデザイナーや建築家との間に築く強い信頼関係を重要視しています。
オーセンティック(本物)なプロジェクトとは常に斬新なアイディアを出し合い、
開発のプロセスやノウハウを蓄積し、共に追究するパートナーシップを築くことです。
我々としては新しいコンテンポラリーコレクションの中に
新たな展望と広がりを持たせ、あらゆる意味で人々が共鳴し、
浸透して行くような企画を推し進めたく考えていました。
ルカは我々が行なったブリーフィングを
もとに新しく、快適でありながらも
デコラティブで品位溢れるテーストの
ソファを実現し我々の期待に
応えてくれたのです。
- ―ルカのプレゼンを聞いてどのような印象を受けましたか?
- ルカは可能性を秘め、我々のブリーフィングや求めていたものに呼応する
大変興味深いプロジェクトのプレゼンをしてくれました。
送られて来た「ラ・ミーズ」の小さな模型は最終製品と
ほぼ変わらぬ完成度の高いもので、彼が予めしっかりと準備を進めていたこと、
パッションを持って真摯にプロジェクトに取り組んでいたこと、
そして何よりも才能に満ち溢れていたことを証明するものでした。
- ―ルカ・ニケットを採用した決定的な要素は何でしたか?
- いい信頼関係は仕事を成功裡に進めるための最高の材料です。
ルカとは最初のプレゼンから間を置かずすぐにプロジェクトに着手しました。
彼はカッシーナの歴史を代弁しつつ自らの構想を元に我々と共に
将来的な協業へのさらなる展望をも予感させながら仕事を進めて行きました。
「ラ・ミーズ」ソファの企画開発は極めてスムーズに進み、
ソファから始まったプロジェクトはごく自然派生的に
「トレイ」の開発にもつながって行ったのです。
- ―ルカの作品を製品化するにあたって
最も留意した点は何ですか?
- 最大のチャレンジはカッシーナの企業文化の
重要な一翼を担う張地の部分でした。
贅沢な一枚仕立てのファブリックを使い
マクロジグザグのステッチの開発に
特に留意をした次第です。